ウィーンの美術館の壁にかかっている1枚の絵が、4,000個のブロックになった。
レゴ(R)アートの新作「Gustav Klimt <接吻>」(31221)が正式発表された。日本のレゴ公式ストアでの価格は ¥52,980、発売は2026年8月4日。レゴ Insidersメンバーは8月1日から3日にかけて先行購入できる。原画を所蔵するウィーンのベルヴェデーレ美術館との共同開発だ。
ただ、この発表でいちばん読み解きがいがあるのは、接吻そのものではない。同じ棚で、名画路線の入口にいた2作が静かに姿を消そうとしていることだ。
確定スペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| セット名 | Gustav Klimt <接吻>(31221) |
| ピース数 | 4,000 |
| 日本価格 | ¥52,980(レゴ公式ストア・2026年7月17日時点) |
| 海外定価 | $299.99 / €299.99 / £269.99 |
| 発売日 | 2026年8月4日(Insiders先行: 8月1日〜3日) |
| 対象年齢 | 18+ |
| 完成サイズ | 約60 × 54 × 4 cm |
| 共同開発 | ベルヴェデーレ美術館(ウィーン) |
日本のレゴ公式ストアの商品ページには、2026年7月17日時点で「新着」と並んで「限定」バッジが付いている。
「限定」は日本のレゴ公式ストアでの表記で、レゴ.comとレゴストアが基本の入手先になることを意味する。ただし Brickset のグローバル分類では 31221 の流通区分は「Retail(一般流通)」であり、国や時期によって扱いは変わりうる。「日本でも必ず定価が維持される」と読み替えないほうがいい。
金をブロックで積むという難題
<接吻>は、クリムトの「黄金期」を締めくくる作品として知られる。原画(1907〜08年)は油彩に金箔・銀・プラチナを貼り込んだもので、約180cm×180cmの正方形。ウィーンのベルヴェデーレに常設展示されている。
レゴ版が挑んだのは、この「金」の質感だ。マスターモデルデザイナーの Milan Madge 氏は、金色のパーツと専用に装飾されたパーツを組み合わせることで、原画特有の色合いと質感を再現したと説明している。
公式画像を見ると、その作り分けがはっきり分かる。
- 男性のローブ: 白・黒・グレーの長方形タイルを敷き詰めた直線的な文様
- 女性のローブ: 円・螺旋・花を思わせる装飾パーツを散らした曲線的な文様
- 背景: タン系とブロンズ系のポッチとタイルを組み合わせたモザイク状の地
- 足元: 緑の花畑を色とりどりの丸パーツで表現
- 右下: クリムトの署名を模したタイル
原画でも、男性の衣は直方形、女性の衣は円形の文様で描き分けられている。その「四角と丸の対比」がレゴのパーツ選びにそのまま翻訳されているのが、このセットの一番の見どころだ。壁掛け用のハンガーが付属し、ブロックを1つ外すと壁の取り付け位置に印を付けられる仕掛けも入っている。
名画路線6作を、全部並べてみる
Brickset の分類では、レゴアートの中に Paintings(名画) というサブテーマがある。クリムトはその6作目にあたる。Brimaga のデータベースとレゴ公式ストアの日本価格を突き合わせると、この路線の変化が数字で見える。
| セット | 年 | ピース | 日本定価 | 1ピース単価 | 日本公式の状態 |
|---|---|---|---|---|---|
| 葛飾北斎 <神奈川沖浪裏> 31208 | 2023 | 1,810 | ¥15,880 | 約8.8円 | 品切れ・まもなく廃番 |
| モナ・リザ 31213 | 2024 | 1,503 | ¥14,980 | 約10.0円 | 品切れ・まもなく廃番 |
| ゴッホ <ひまわり> 31215 | 2025 | 2,615 | ¥34,980 | 約13.4円 | 販売中 |
| 桜のある日本の風景 31218 | 2026 | 1,892 | ¥19,980 | 約10.6円 | 販売中 |
| モネ <睡蓮の池に架かる橋> 31220 | 2026 | 3,179 | ¥34,980 | 約11.0円 | 販売中 |
| Gustav Klimt <接吻> 31221 | 2026 | 4,000 | ¥52,980 | 約13.2円 | 近日発売 |
※ 日本定価と状態はレゴ公式ストア(2026年7月17日時点)、ピース数と海外定価は Brickset による。 ※ 桜のある日本の風景(31218)だけは特定の名画の再現ではなくレゴのオリジナルデザインだが、Brickset の分類上は同じ Paintings サブテーマに入るため並べている。
北斎が日本で発売された2023年2月、その値段は 1,810ピースで ¥13,980 だった(現在の ¥15,880 は、その後の価格改定を経た値段だ)。3年後の最新作は 4,000ピースで ¥52,980 ── 発売時価格どうしで約3.8倍、ピース数で約2.2倍になった計算になる。名画レゴは「気軽に飾る壁面アート」から「大型ディスプレイセット」へと軸足を移している、というのがこの表の読み方だ。
ここは日本のコレクターにだけ効いてくる話がある。北斎の ¥13,980 → ¥15,880 は約+13.6%の価格改定で、セットの中身は何も変わっていない。つまり「名画レゴが高くなった」の一部は路線の大型化ではなく、日本国内の価格改定によるものだ。海外の値上げ幅と日本の値上げ幅は別物なので、円建てで語るときはこの2つを分けて考えたい。

面白いのは1ピース単価だ。クリムトの約13.2円は、ゴッホ<ひまわり>の約13.4円とほぼ同じで、路線の中で突出して割高というわけではない。4,000ピースという物量ぶん、絶対額が上がっている。逆にモネの約11.0円は、3,000ピース超の大型作としては健闘している。
ドルは+20%、円は+51%
同じ2026年発売のモネと比べると、通貨によって上げ幅がまるで違う。
| 通貨 | モネ 31220 | クリムト 31221 | 上げ幅 |
|---|---|---|---|
| 米ドル | $249.99 | $299.99 | +20% |
| ユーロ | €199.99 | €299.99 | +50% |
| 日本円 | ¥34,980 | ¥52,980 | +51% |
円の +51% は、ユーロの +50% とほぼ同じ。日本だけが不当に高いわけではなく、むしろ米ドルの +20% が例外的に緩い。
ドル定価に対する円定価の比率を並べると、モネの安さが際立つ。
| セット | 海外定価 | 日本定価 | ドル定価に対する円定価の比 |
|---|---|---|---|
| モネ 31220 | $249.99 | ¥34,980 | 約140 |
| 桜 31218 | $139.99 | ¥19,980 | 約143 |
| モナ・リザ 31213 | $99.99 | ¥14,980 | 約150 |
| 北斎 31208 | $99.99 | ¥15,880 | 約159 |
| ゴッホ 31215 | $199.99 | ¥34,980 | 約175 |
| クリムト 31221 | $299.99 | ¥52,980 | 約177 |
レゴは為替レートで日本価格を決めているわけではなく、市場ごとに価格を設定している。この列は実勢レートではなく「ドル定価と円定価の比」を機械的に割っただけの参考値で、価格の設定時期によっても変わる。
それでも、ドル定価との比で見るかぎり、名画路線でいちばん円に有利な設定なのはモネだ。3,179ピースで ¥34,980 は、クリムト発表後の今こそ見え方が変わる数字になる。(なお1ピース単価だけで見れば最安は北斎の約8.8円で、「割安」は何を基準に見るかで答えが変わる。)
この表で北斎が「約159」と割高に見えるのは、実は路線の設計のせいではない。発売時の北斎は ¥13,980 ÷ $99.99 = 約140 で、モネとほぼ同じ比率だった。米定価 $99.99 は当時から据え置きなので、159 に上がったぶんはそっくりそのまま日本の価格改定(+13.6%)による。円で見た「高くなった」の正体が、路線の大型化なのか国内改定なのか ── 分けて見ると景色が変わる。
その裏で、北斎とモナ・リザが棚から消えかけている
クリムトの華やかな発表の陰で、レゴ公式ストアの同じアート棚には別の変化が起きている。
| セット | 日本定価 | 公式ストアの表示(2026年7月17日時点) |
|---|---|---|
| 葛飾北斎 <神奈川沖浪裏> 31208 | ¥15,880 | 品切れ・まもなく廃番 |
| モナ・リザ 31213 | ¥14,980 | 品切れ・まもなく廃番 |
名画路線でいちばん安い2作が、そろって品切れのまま「まもなく廃番」表記になっている。
念のため補足すると、これは同じ棚で同時に起きていることであって、クリムトの発売と北斎の廃番に因果関係があるわけではない。新作の投入と旧作の生産終了は別々の判断だ。ただ、買う側から見れば「この2つが同じ月に起きている」という事実のほうが重要になる。

ここで Brimaga のデータを重ねると、北斎の立ち位置がよく分かる。Brickset のウィッシュリスト登録数(2026年7月17日時点の集計)では、北斎はレゴアート全体で「欲しい」が最多の2,615件。所有登録は7,459件だ。
「欲しい」の数は Brickset のウィッシュリスト登録数で、所有数とは別の指標。北斎は所有7,459件と広く行き渡ったうえで、なお2,615件の需要が残っている状態を示す。(この2,615という数字は、上の表にあるゴッホ<ひまわり>のピース数2,615と偶然一致しているだけで、別の指標です。)
つまり北斎は、名画路線の1作目にして、いちばん安く、いちばん欲しがられているセットだった。それが在庫切れのまま廃番に向かっている。公式の再入荷がなければ、以後の入手先は二次流通に限られる。
なお、この2作は現在レゴ公式ストア(日本)で在庫が切れており、Brimaga でも楽天・Yahoo!の実勢オファーは現時点で捕捉できていない。定価 ¥15,880 / ¥14,980 という数字が、いま公式で買える最後の基準値になる可能性がある。
廃番の見立ても、日本公式の表示と噛み合っている。海外の相場サイトは 31208 について、BrickEconomy が「2026年半ば〜後半に廃番」、Brick Ranker が「2026年7月に廃番予定」と、いずれもレゴ公式ストア(日本)の「まもなく廃番」表記と同じ方向を示している(いずれも予測値であり、公式発表ではない)。
ただし「廃番間近=もう高い」ではない
ここは相場サイトとして正直に書いておきたい。現時点で、この2作にプレミアは付いていない ── 少なくとも、数字が取れる米国市場では。
2026年7月17日時点の米国市場を、指標を変えて2つ見るとこうなる。
| 指標 | 北斎 31208 の水準(米定価 $99.99 比) |
|---|---|
| BrickEconomy の最安値 | 約 -9.5% |
| Brick Ranker の実売平均(直近6か月) | 約 -18.0%($81.97) |
モナ・リザ(31213)も BrickEconomy の最安値で米定価比 約-12.1%。指標によって幅はあるが、最安値も実売平均も、いずれも定価割れだ。 米国ではまだ在庫があり、定価を下回って買える状態ということになる。
この%は米ドル建ての数字で、米国定価に対する比にすぎない。日本定価 ¥15,880 との比較ではないので、「日本でも1〜2割引で買える」とは読まないでほしい(そもそも日本公式は在庫切れだ)。BrickEconomy が表示する円価格もドル建ての換算値で、日本の実売とは一致しない(同サイトは北斎の定価を ¥11,500 と表示するが、レゴ公式ストア日本の定価は ¥15,880 だ)。
つまり廃番のニュースに慌てて高値を追う場面ではない、というのが現時点の妥当な読み方になる。日本と米国では在庫状況(日本は品切れ/米国はまだ在庫あり)が違うため、米国の数字がそのまま日本のメルカリ・ヤフオク相場を保証するわけでもない。
一方で、廃番後のレゴアートが伸びた例はある。World Map(31203)は2023年12月に廃番となり、その後、米定価($249.99)比で Brick Ranker の実売平均が 約+120%(約$549)、出品価格ベースで推定する BrickEconomy では 約+190% まで伸びた。同じセットでも指標でこれだけ差が出る(実売平均は低め、出品ベースは高めに出る)ことは、相場を読むうえで頭に入れておきたい。
World Map は 11,695ピースというレゴアート全体で最大のセットで、名画(Paintings)路線には含まれない別枠の存在だ。1〜2万円台の名画セットが同じ動きをするとは限らない。
値動きは各セットの詳細ページで追える(レゴ セットを探す)。
豆知識:クリムトの「金」は、日本から来た
レゴ公式ストア(日本)の商品ページには、さらりと興味深い一文が置かれている。2026年7月17日時点の商品説明によれば、クリムトは黄金期のモチーフを、ビザンティンのモザイク、日本の漆芸、そして金細工師だった父の仕事から着想した、という。
これは販促コピーだけの話ではない。美術史でも、クリムトとジャポニスムの関係は繰り返し論じられてきた。
- 1903年にラヴェンナのサン・ヴィターレ聖堂で見たビザンチン・モザイクの金が、黄金期の作風に大きく影響したとされる
- 浮世絵の平面性・文様・鮮やかな色彩から影響を受けたとされる
- 京都の琳派が使う金地の装飾を敬愛していたとされる
- 2019年には東京都美術館で「クリムト展 ウィーンと日本 1900」が開催され、この関係が正面から取り上げられた
<接吻>は1908年の展覧会(クンストシャウ)に「Liebespaar(恋人たち)」の題で出品され、まだ完成していない状態でオーストリア政府に買い上げられたと伝わる。
つまり、北斎とクリムトを同じ棚に並べることには、美術史的にちゃんと筋が通っている。金地の装飾や平面的な文様という共通の水脈が、ウィーンと日本のあいだには実際にあったからだ。
レゴアートの名画路線が北斎で始まり、クリムトで最大作に到達したのは、おそらく偶然だ。それでも、その日本の名画のほうが先に棚を降りようとしているのは、少し惜しい巡り合わせではある。

コレクター視点:¥52,980をどう考えるか
最後に、Brimaga としての見方を4つ。
- 「4,000ピースで¥52,980」は、路線の中では割高ではない。 1ピース単価 約13.2円はゴッホ<ひまわり>とほぼ同水準。ただし絶対額は名画路線で最高になるため、「単価は妥当だが、出費は最大」という理解が正しい。
- 日本では公式ストアが基本の入手先になる。 Insidersの先行期間(8月1日〜3日)とポイント還元が実質的な優遇だ。ただしグローバルの流通区分は「Retail(一般流通)」なので、「日本でも絶対に値引きされない」とまでは言い切れない。急ぐ理由がないなら、慌てなくてよい部類だろう。
- 買い逃しリスクが高いのはクリムトより北斎とモナ・リザ。 品切れ+まもなく廃番の組み合わせは、公式在庫が戻らないまま終わる可能性がある。ただし米国市場ではまだ定価割れ(米定価比で約-9.5%〜-18.0%)で、プレミアは付いていない。公式の再入荷を狙うのが第一手で、高値を追いかけるのは今ではない。
- ドル定価との比で見れば、円に有利なのはモネ。 ドル定価に対する円定価の比が約140と路線で最も低く、3,179ピースで ¥34,980。クリムトの登場で、モネの価格設定の良さがかえって浮き彫りになった。
黄金期のクリムトが金箔で描いた抱擁は、100年以上たって4,000個のブロックになった。同じ棚では、彼が惹かれた日本美術の代表作が静かに降りようとしている。並べて眺めると、名画レゴという路線がこの3年で何を選んできたのかが、少しだけ見えてくる。








